読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

vacío

からっぽな日常に色をつける

コインロッカーベイビーズ

2016年6月18日

コインロッカーベイビーズを観てきました。

村上龍の名作を宝塚歌劇団所属の演出家木村信司が自ら脚本を書き売り込み、舞台化にこき付けたという今作。主演はA.B.C-Zの橋本良亮と河合郁人。そして出演者にはROLLY芋洗坂係長等個性的な面々が揃っています。

今作が発表されてから一番楽しみだったのが演出で、木村信司という演出家が宝塚歌劇団の抱える演出家の先生の中でサイトーくんと1、2を争うくらい好きなの演出家だったからです。キムシンの代表作は「王家に捧ぐ歌」「鳳凰伝」「Ernest in Love」ですが、宝塚を好きになったきっかけの作品が「Ernest in Love」なので、キムシンの演出というのはきっと肌に合うっていうやつなんだと思います。

ただ、原作の方はあまり好みではない作品だったので、あのハシとキクをはっしちゃんと河合くんがやるのか〜なんてちょっと思っていました。見たいけど見たくない。それが観劇前のイメージでした。

 

物語は真田佑馬くん扮する駅員の「暑いなあ」という一言から始まる。1972年の夏にキクとハシはコインロッカーに捨てられ、キクは自らの泣き声で、ハシは身体が弱い故に身体に散布された薬品の匂いによって盲導犬が気付き救出される。二人は横浜のキリスト教系の孤児院で暮らしたのち、九州の炭鉱跡の島に暮らす養父母に引き取られる。彼らは孤児院で暮らす中で精神疾患を疑われ「母親の鼓動の音」を聞くという治療を受けており、主治医は「彼らはが変わったということは気付かせてはいけない」と言っていた。

ある日デパートの屋上で売れない歌手の催眠術によりコインロッカーの中での暑さの記憶を呼び起こされたハシは「実の母親を探す」ため島を出て行く。ハシを探すため養母と東京へ出てきたキクはアネモネという少女と出会う。アネモネはキクとの出会いに今まで求めていたものを見出す。

東京の薬島という社会のはみ出し者たちの集まる隔離された区域でハシとキクは再開を果たすが、ハシは「歌手になりたかった」と言いまた「僕はホモなんだ」という発言をし、ハシとキクは口論になる。

ハシは音楽プロデューサーのDの導きによりポップスターへの道を歩み始め、スタイリストのニヴァと出会う。女性と性的関係を始めてもったハシはニヴァに惹かれていく。

他方キクはアネモネに幼い頃にガゼルという男から聞いた「ダチュラ」の話を聞かせる。「ダチュラ」は「体内の抑止をする成分を消滅させる」薬で服用すると「筋肉が異常発達し破壊衝動に支配される」薬。余りにも危険なため海底深くに沈められたとのこと。

ある日Dからハシの居所を聞かれたキクはハシと母親の対面というテレビ番組が放映されていることを知る。実の母親と対面したらハシは壊れてしまうと感じたキクはハシのもとへと向かう。そしてその場で見たものとはキクの実の母親であった。キクは混乱し持っていた拳銃で母親を撃ち殺してしまう。

少年院に5年間服役することとなったキクは実習航海中に脱走をし、海底に沈むダチュラを引き上げ東京に散布しようという計画をアネモネに話す。他方ハシはバンドメンバーとの意見の食い違いなどで精神が蝕まれていった。「もう一度あの音を聞きたい」と願うハシはある日ニヴァから子供ができたと告げられ更に精神が不安定になってゆく。

服役中のキクと面会を果たしたハシは「人間の顔をした蝿を食べてから蝿が頭の中で囁く」といい「愛するものを犠牲」にした時に「あの音」が聞こえるとキクに語った。キクは今でも自分たちはあの暑いコインロッカーの中にいた時と何も変わっていないことを知る。ハシは壊れてしまった。面会時間が終わりハシが退室したときにキクは思い出す。「あの音は心臓の音だ」と叫ぶがハシに届くことはなかった……

 

 

結構な分量のある原作をどうまとめていくのかなと思っていたのですが、「あえて多くを描かない」ことでまとまりのある舞台を作り上げていたように感じました。多くを描いていない割には破綻なく描かれていて、やはりキムシンの演出は肌に合うなと思いました。そして熱のこもった演出に応えた河合くんはっしちゃんの二人も素晴らしいなと。この舞台を見た後にはっしちゃんを見るのが若干怖かったくらいには狂っていくはっしちゃんの演技が凄くて(手首を外せるんだよのシーンとか)飲み込まれないでね、と少し心配になってしまうくらいの演技を見せてくれました。舌を切る前と後では声を変えて歌っているあたりにはっしちゃんの歌に対する熱意を感じました。また河合くんは普段のキャラを封印して無口なキクを演じきっていて、原作だとキクの方が体格が良さそうなイメージなんですが、河合くんは結構小柄なのにそれを感じさせないところに河合くんの凄さを感じました。今回結構きわどいシーンを担う部分が多い河合くんですが、オス感に溢れるのかな?と思いきやわりと宝塚のラブシーンくらいの感じだったので、やはり河合くんの二次元感すごいなって思います。ラブシーンが美しい男性って少ないと思うんですが、河合くんはすっごい美しい。河合くんにしかない才能なので是非もっと河合くんに演技のお仕事を下さい。その他に目が行きがちだったのはD役のROLLY。久しぶりに生で見ました。相変わらずのええ声とギターでしたが、ビキニのシーンで体がおじいちゃんだったのが結構アレで。お年を召したんだなと謎の感慨を覚えます。またアネモネ役の昆さんが可愛かったのですが、原作のアネモネのイメージからは乖離しているので全く別物として考えてみていれば本当に可愛くて理想のアネモネだと思います。

舞台を見てから原作が無性に読みたくなって原作を購入して読み直したんですが、中学生くらいの自分が読んだ時と今読んで感じるものは全く別物なんだなとおもいました。(主に父親の影の薄さとキリスト教的な母性感と子宮とコインロッカーのあたりの解釈がきちんとできるようになったあたり)昔ほど苦手感もなくなったので他の村上作品も読み返してみようかなと思ってます。